事実婚でも遺族年金は受給できる?

2020-01-26

事実婚は法律上は婚姻とは認められていません。とはいえ近年では事実婚でも法律婚に準ずる扱いを受けられる場面が次第に増えています。遺族年金についても同様です。事実婚の夫婦でも、遺族年金を受け取ることができるケースが多くなってきました。

ただし法律婚と違い、事実婚では遺族年金を受給できる要件を満たしているかが問題となります。

どのような要件を満たせば事実婚でも遺族年金を受給できるのでしょう。

事実婚での遺族年金の受給要件

遺族年金は、厚生年金保険法に定められています。被保険者が亡くなった場合に、その遺族に支給されるものです。ここでの遺族とは、配偶者など、亡くなった人によって生計を維持していた人とされています。そして、その配偶者には、事実上婚姻関係と同様の事情にある人も含む、と明記されています。
したがって、事実婚でも遺族年金は受給できるのです。

ただし、事実婚の関係にあったと示すことが条件となります。具体的には下記のどちらかの状態にあったことを証明することです。

・2人が、夫婦としての共同生活を営んでいた。
・2人が、周囲の人たちから夫婦として認知されていた。

事実婚だった遺族が遺族年金の受給を申請する際には、通常の申請のほか、事実婚関係にあったことを示す申立書も提出することがほとんどです。その際に上記の要件のどちらかを証明できれば、遺族年金を受給できると考えて良いでしょう。

「共同生活を営んでいた」とは

まず1つ目の「夫婦として共同生活を営んでいた」とは、要するに、一般的な法律婚と同じく、家計や家事を共同で負担し生活していた、そのような生活を営む意思があった、ということです。それを客観的に示すために、証拠として提出できるものがあると有効です。

家計を一にしていた

家計を2人で協力して負担していたことは、費用の支払いや契約が生じるので、比較的各種の証拠が残りやすいと言えます。代表的なものには以下のものがあります。

公共料金の領収書

公共料金の領収書は、生活の基盤となる住所を示すのに有効です。契約者が連名になっていれば、同居して共同生活をしていたことがわかります。

賃貸借契約書

賃貸借契約書も公共料金の領収書と同様に、生活の基盤となる住所を示します。連名での契約または同居人として記載されていれば、共同生活の証拠となります。

生命保険の契約

生命保険の契約者と保険金の受取人の関係は、一時的なものではありません。文字どおり亡くなった後のことも考慮しての生命保険ですから、2人の関係性を示せます。

扶養・被扶養の関係にある

事実婚カップルが、扶養・被扶養の関係にあったことを示すことができれば、それはとても確かな証拠になります。共同生活をしていたことが、公的な資料として残っていることになるからです。

健康保険証

事実婚でも健康保険の扶養に入ることは可能です。その記録は健康保険証にも残りますので、事実婚関係にあったことがよくわかります。

給与明細

会社によっては家族手当や扶養手当などが支給されることがあります。それは給与明細に記載されるでしょう。給与明細には被扶養者の名前までは書かれていませんが、会社に依頼すれば帳簿などで誰が被扶養者であったかが証明できます。

「夫婦として認知されていた」とは

ここまでは比較的証明が容易なケース、つまり明確な証拠として使えるものを紹介してきました。では、第三者が発行した証拠がなければ、事実婚であったことは認められないのでしょうか。
そんなことはありません。周囲に夫婦として広く認知されていたことを示すことができれば、客観的な証拠がなくとも事実婚として認められ、遺族年金も受給できます。

周囲が夫婦であると認めていた

その夫婦が法律婚なのか事実婚なのか、周囲の人が実際に戸籍や住民票を見て確かめることはほとんどありません。それぞれの人たちが主観的に、その2人は夫婦であると認識するのです。
そして、多くの人たちに夫婦であると認識されていたカップルは、事実上の婚姻状態にあった、つまり事実婚をしていたと認められます。

連名で郵便物が届いている

その2人が同居し一緒に生活していると友人などが認識していれば、夫婦2人に宛てて連名で郵便物を出すこともあるでしょう。年賀状などが代表的な例です。

結婚式や披露宴をひらいた

婚姻届は提出しなくとも、結婚式や披露宴を開くカップルはいます。自分たちは夫婦であると周知する行為ですから、その後一緒に生活していれば、法的な手続きはしていなくとも夫婦と認識されるでしょう。

葬儀で喪主を務めた

喪主は通常親族が務めます。法律婚をしていなくとも喪主を務めるには、故人の親族からも実態は夫婦であったと認められていたであろうと推測できます。

事実婚を証明する手続きをしている

婚姻届を提出する代わりに、事実婚をしていることを証明する手続きを行うカップルも少なくありません。その手続きによって、法律婚に準じた扱いを受けられることが多いためです。
この手続きは夫婦間の個人的なものの場合もありますが、事実婚をしていた証拠にも十分なります。

住民票の届け出をしている

同居するために引っ越す際、住民票を1つの住所に移します。そのときに、2人の続柄を「夫(世帯主)」と「妻(未届)」もしくは「妻(世帯主)」「夫(未届)」とすることができます。これは場合によっては婚姻届と同等のものともされます。

事実婚契約書を作成している

事実婚には婚姻届がないため、いつから夫婦関係にあるのかは記録が残りません。そこで、2人に婚姻の意思があること、いつから事実婚関係になっているか、などといったことを記載した契約書を作成することがあります。

万が一のための準備は忘れずに

事実婚でも法律婚と同じ扱いを受けられることが増えてはいますが、婚姻届を提出しておけば済む法律婚に比べると、事実婚はまだまだ面倒な部分も少なくありません。特に遺族年金の受給などといった、アクシデントに近い出来事に対応するのは比較的大変です。
可能ならば事実婚関係になった段階で、住民票や健康保険証など、公的な機関や会社を巻き込んで事実婚を証明できる手続をしておきましょう。それができなくとも、普段から事実婚の証拠になるものを保存しておく癖をつけることをおすすめします。