
事例で読み解く「遺留分」 意味と計算方法をわかりやすく解説
2019-12-15
相続については、誰でもある程度関心があることでしょう。財産を遺す者、遺産を受け取る者、それぞれに思いがあります。また、終活という言葉に象徴されるように、自らの死または死後についての関心も高まっています。
ここでは相続に関する制度の一つである「遺留分」について、その意味と計算方法を、事例を使って説明します。
遺留分って何?
事例
夫、妻、子1人の3人家族があるときに、夫が100歳で天寿を全うしたとしましょう。
夫の死亡によって相続が開始します。相続人は、妻と子です。法定相続分は、妻2分の1、子2分の1です(民法900条、901条参照)。
ここで、夫の遺言書が見つかりました。家庭裁判所で検認の手続を取ったところ、財産全てを夫が死亡するまで長年居住していた施設に包括遺贈するという内容でした。
妻は現在95歳ですが、自宅で元気に年金生活をしています。子は現在67歳で、会社を定年退職し、妻(母)とは別に自己所有のマンションで家族と年金生活をしています。
なお、子は8年前にマンションを購入し、その時に夫(父)から1000万円の援助を受けていす。
夫が残した主な財産は、妻が居住している土地建物(評価額3000万円)と預金4000万円です(債務はなし)。
遺留分の意味
夫は、遺言によって財産全てを施設に遺贈しましたので、妻と子は、財産を一切相続できないことになるのでしょうか?
ここで遺留分という制度が重要な意味を持つことになります。
遺留分とは、遺言者は自分の財産を自由に処分できるけれども、最低限の財産は相続人に残さなければならないというものです。
本事例の場合ですと、妻と子に合わせて財産の2分の1を相続させなければなりません(民法1042条参照)。そして、妻と子は財産2分の1をさらに法定相続分の割合で取得することになるので、妻と子はそれぞれ4分の1の財産を相続します。
遺留分を理解する前に
遺留分の意味を理解するためには、そもそも相続とはどのような制度なのかを理解する必要があります。
一般的に相続とは、①残された家族の生活を保障する、②財産に対する潜在的な持ち分を清算するものといわれています。
近時、核家族化と少子高齢化が進み、①でいう家族とは残された高齢の配偶者を意味するようになってきました。
②の「持ち分の清算」というのは、かつては家族で事業や農業等を営んでいて、そこで得た財産は夫名義であったとしても、潜在的にはともに働いた妻や子の持ち分があるはずなので、それを清算するという考え方です。
しかし、現在はサラリーマン家庭が増加し、子は独立して家庭を持ってサラリーマンとして収入を得ているという家族形態が多くなり、②の意義は若干薄れてきたといわれています。
これが相続の本質ですが、これを実現するものが法定相続と遺留分という制度なのです。遺言自由の原則に修正を加える大変重要な制度ということができます。
遺留分の計算方法
それでは遺留分の計算方法について、その骨子を説明します。
遺留分権利者
まず遺留分を行使できる遺留分権利者ですが、兄弟姉妹を除く相続人です。子、直系尊属、配偶者などが遺留分権利者になります(民法1042条参照)。
遺留分の対象となる財産
次に対象となる財産ですが、相続開始時に存在する財産の価額が基礎となり、これに遺贈または贈与した財産の価額を加算し、さらに債務の価額を控除したものが遺留分算定の基礎となる総財産の価額となります。
ところで、生前に贈与した財産は全て遺留分の計算の対象になるのかというと、そうではなく、相続開始前の1年間にしたものに限り対象になります。
ただし、相続人(本件では妻と子)に対する贈与(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)については、相続開始前の10年間にしたものに限り遺留分の計算の対象になります。評価方法は特別受益者が受けた贈与についての規定が準用されています(民法1044条参照)。
遺留分の計算方法は、令和元年(2019年)7月1日施行の相続法改正によって変更されていますので、注意が必要です。
事例における遺留分の計算方法
本事例では、財産全てが施設に包括遺贈されていますので、残された財産はなく、遺贈された土地建物(評価額3000万円)と預金4000万円に、子に対するマンション購入費用として贈与された1000万円を加えた8000万円が遺留分を計算する基礎となる財産の総額です。なお、被相続人が残した債務は控除されます。
具体的には、総額の2分の1である4000万円が遺留分の価額であり、これを子と妻が法定相続分2分の1ずつに分けて、それぞれ2000万円の遺留分を有するという計算になります。なお、子は既にマンション購入資金1000万円の贈与(特別受益)を受けていますので、これを控除し具体的な遺留分は1000万円ということになります。
まとめ
遺留分については民法1042条以下に規定があります。遺留分は元々複雑な制度だったのですが、令和元年7月に大きな改正がなされ、すっきりと整理されました。
そうは言っても、遺留分制度は相続の基本を把握していないと理解が難しい複雑な制度ですので、根気よく条文に当たる必要があります。
特に、これから遺言を残そうとするときには、遺留分に注意して思わぬトラブルを後に残さないようにする必要があります。