「自筆証書遺言」制度の改正について

2019-12-21

この記事では、自筆証書遺言制度の改正についてまとめています。

遺言などというと、「縁起の悪い話だ」とお感じになる方もおられるかもしれません。

しかし、実は遺言は将来の「争続」を防ぐため、とても役立つ制度です。中でも、もっとも手軽に作成できる自筆証書遺言の制度について、民法の改正がなされて利用しやすいものとなりました。

本記事では、遺言制度の種類について簡単にご説明した後、自筆証書遺言制度の改正の知識についてまとめていきたいと思います。

遺言の種類と自筆証書遺言のメリット

遺言にはいろいろな種類がある

まず、民法では遺言についていくつかの種類が用意されています。

今回改正された自筆証書遺言の他も、公証役場を利用する「公正証書遺言」と「秘密証書遺言」や、非常に特殊な場面を想定した「死亡危急者遺言」「伝染病隔離者の遺言」「在船者の遺言」「船舶遭難者の遺言」などがあります。

これらの遺言のうち、現実に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類がほとんどです。

しかし、公正証書遺言と秘密証書遺言は、公証役場を利用するため費用がかかってしまったり、遺言に立ち会う証人を用意する必要があったりなど、利用にあたって不便な点があり、遺言制度の利用を躊躇させてしまう面がありました。

自筆証書遺言のメリット

一方で、自筆証書遺言は、文字どおり、ご自身で書かれた(自筆)遺言を言います。自筆証書遺言は、民法968条で定められているルールさえ守れば(全文・日付・氏名が自書されていること、押印があることだけです)、メモ用紙1枚でも有効な遺言となります。

極端な例ですが、介護を受けている方がおられるとして、日々介護をしてくれる介護士の方に感謝して「全財産を介護士○○に遺贈する」旨と、日付、氏名を自書し、押印したメモを残されれば、介護士の方は全財産を得ることができます(なお、このような極端な場合には遺留分という別の問題が生じ得ますが、ここでは割愛します)。

このように、とても簡便に作成できるのが自筆証書遺言のメリットです。

自筆証書遺言の問題点と改正

自筆証書遺言の問題点

簡便に作ることができるのが自筆証書遺言のメリットですが、問題点も指摘されていました。

まず、全文自筆しなければならないことが負担になるという点です。

例えば、ある方が10個の金融機関に口座を持っている場合、遺言の内容によっては、銀行の口座番号まですべて手書きで書き写し、「財産目録」という書類を作らなければならず、大変手間がかかりました。特に、脳梗塞の後遺症などで自筆が困難な方の場合、財産目録を作るのが困難でした。

次に、自筆証書遺言には紛失や未発見という可能性があると指摘されていました。遺言が効力を持つのは作成者が亡くなってからですので、遺言が発見されないままになってしまうことがあると指摘されていました。

自筆証書遺言の改正

上記の2つの問題点を改正するため、民法が改正され、まず、財産目録については、署名押印さえすればパソコンなどで作成してもよいということになりました。

そのため、金融機関の口座などについては、金融機関の情報をPCで写してしまえばよく(いわゆるコピー&ペースト)、作成が簡単になりました。

また、自筆証書遺言の紛失等の問題については、法務局が自筆証書遺言を預かるという制度がつくられました。つまり、自筆証書遺言を法務局がご本人に代わって保管してくれるのです。

この制度を利用すれば、自筆証書遺言が紛失したり、発見されなかったりするおそれはなくなります。なお、この制度は令和2年の7月10日から利用できます。

まとめ

冒頭で述べましたように、遺言は縁起が悪いものとして利用を躊躇する方も少なくないかと思われます。しかし、実は遺言は、いつか必ず訪れる死の後、ご親族でトラブルが生まれないようにするために法律が用意した「家族にやさしい制度」です。

民法改正も踏まえて、将来の円満な家族関係のために遺言の有効活用も検討してくだされば幸いです。