内縁の夫が死亡したときにすべき3つのこと

2020-01-02

近年、さまざまな事情で婚姻届を提出せずに内縁のまま夫婦生活を続ける方が増えています。

しかし、内縁の夫が死亡すると、妻は正式な法律上の夫が死亡した場合よりも、いろいろな面で苦労することがあります。

特に、内縁の妻には相続権がないため、夫亡き後の生活に困ってしまう場合も多いものです。

そこでこの記事では、内縁の夫が死亡したときに、妻が生活を守るためにすべき3つのことをご紹介します。

内縁関係とはそもそもどのような関係をいうのか

内縁関係とは、婚姻届は提出していないものの、婚姻の意思を持って事実上の夫婦として共同生活をする関係のことをいいます。

婚姻の意思とは、夫婦となる意思のことです。正式な夫婦と内縁の夫婦との違いは、婚姻届を提出しているかどうかだけの違いです。

婚姻届を提出して夫婦関係を結ぶことを「法律婚」、内縁の夫婦関係を結ぶことを「事実婚」と呼ぶこともあります。

内縁関係でも実態は夫婦であることから、2人の関係は法律によってある程度は保護されます。

ただし、内縁関係が認められるためには、夫婦として共同生活をしていることが必要です。単に同棲しているだけで夫婦としての実態がない場合は、内縁関係とは認められません。

相手に正妻がいることを知りながら不倫関係を結んでいる愛人などは、内縁の妻としては認められません。したがって、この記事でご紹介する内縁の妻の権利も認められないので注意が必要です。

内縁の夫婦と法律上の夫婦との違い

内縁の夫婦にも法律上の夫婦と同等に認められている権利や義務には、以下のようなものがあります。

・同居の義務(同居する義務)
・貞操の義務(浮気や不倫をすると慰謝料問題が発生する)
・相互扶助の義務(お互いに助け合う義務)
・日常家事債務の連帯責任(共同生活で負った債務は夫婦の責任となる)
・婚姻費用分担の義務(生活費は2人で分担すること)
・財産分与(別れるときに共有財産を折半にすること)

他方で、婚姻届を提出していない場合、以下の権利義務は内縁の夫婦には認められません。

・夫婦で同じ姓を名乗ること
・成年擬制(未成年者が結婚することで成人として扱われること)
・準正(認知された非嫡出子が父母の婚姻によって嫡出子となること)
・相続権

内縁の夫婦には相続権がないため、内縁の夫が亡くなると妻が生活に困ったり、相続争いに巻きこまれたりすることもあります。

内縁の夫が死亡したときに妻が生活を守るためにすべき3つのこと

相続権がなくても、内縁の妻には生活を守るためにできることが3つあります。

遺言書を探す

遺言書に財産を自分に渡すということが書いてあれば、内縁の夫の遺産を妻が取得することができます。遺産分割においては遺言書が最優先されるので、遺言書があれば相続権がなくても相続人に対抗できるのです。

ただし、遺言書は誰もが作成しているわけではありません。内縁の夫が死亡する前に、遺言書を書いてもらうことが大切です。

とはいえ、内縁の夫に強制して無理やり遺言書を書かせると、その遺言書は無効になる場合があるので注意してください。

居住権を主張する

内縁の夫が死亡すると、大家さんや相続人から、それまで住んでいた家から出ていくように要求されるケースがよくあります。しかし、内縁の妻は居住権を主張することができます。

2人で住んでいた自宅が賃貸物件の場合は、内縁の夫が相続人なしに死亡すれば、同居していた内縁の妻が賃借権を承継することが借地借家法で定められています。

問題は、内縁の夫の相続人から立ち退きを要求された場合です。この問題は、自宅が賃貸物件でも内縁の夫の持ち家である場合でも起こります。

この場合でも、内縁の妻の居住権を認めた裁判例がたくさんあります。

相続人からの立ち退き要求を権利の濫用として認めなかったり、内縁の夫婦の間で、妻が亡くなるまでその家を無償で使用できるという使用貸借契約が黙示的に成立していたものとしたり、理屈はさまざまですが、同居していた内縁の妻の居住権は守られる傾向にあります。

ケースバイケースなので確実でありませんが、相続権がないからといってただちに家から追い出されるわけではないことを覚えておきましょう。

特別縁故者として財産分与を申し立てる

内縁の夫に相続人がいない場合は、特別縁故者として家庭裁判所へ財産分与を申し立てることで、遺産の全部または一部を取得できる場合があります。

特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた人や療養看護に努めた人など、特別なかかわりあいがあった人のことをいいます。

実質的に夫婦として生活してきた内縁の妻であれば、特別縁故者に該当します。上記のような特別な関わり合いが認められれば、内縁関係に至らない愛人などの交際相手でも特別縁故者として認められることもあります。

ただし、内縁の夫に一人でも相続人がいる場合は、この権利を主張することはできません。

また、相続人がいなくても内縁の夫に債権者などがいる場合は、そちらが優先して遺産を取得するため、必ずしも内縁の妻が遺産を取得できるとは限りません。取得できるとしても、手続には時間がかかります。

このように、特別縁故者としての財産分与の申し立ては、あまり期待できる権利ではありませんが、最後の手段として利用できる場合があることを覚えておきましょう。

内縁の夫の生前に対策しておくことが重要

内縁の夫が死亡したときに妻ができる3つのことをご紹介しましたが、内縁の夫が死亡してしまった後では、できることにはどうしても限りがあります。妻の生活を守るためには、内縁の夫の生前に対策をとっておくことが重要です。

現在、内縁の夫がご存命中で、夫亡き後のご自身の生活を心配している方は、お早めに以下のような対策をとっておくことをおすすめします。

・遺言書を作成してもらう
・生前贈与をしてもらう
・生命保険の受取人を内縁の妻にしてもらう
・子どもの認知や養子縁組をしてもらう
(子どもが相続人になることで母である自分の生活を守る)
・婚姻届を提出する

ただし、上記の対策をとる場合、税金がかかるケースもあるので、生活を守るためには遺言書や生前贈与の内容をよく検討する必要があります。専門的な知識が必要になるので、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。

まとめ

法律上の夫婦ではない以上、内縁の夫が死亡してしまうと、妻は何の権利も主張できないと思われていた方もいるかもしれません。しかし、上記の通り、さまざまな方法でご自身の生活を守ることができます。

ただ、法律上の正妻に比べると立場が弱いことは否定できません。

生活を守るためには、早めに、できれば内縁の夫が死亡する前に対策をとることが大切です。