遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)って何?

2020-01-04

「終活」なる言葉を聞くようになってから久しくなります。

終活の中の一つに、遺言書を残すということが取り上げられています。自分の財産は、死後であっても自分の自由に処分したいと考えるお気持ちはわかります。

しかし、相続の世界においては、全ての財産を遺言によって自由に処分することはできません。遺留分の制度があるからです。

相続人は遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を行って、一定の財産を相続人の手元に残すことができます。

今回は遺留分侵害請求(遺留分減殺請求)について、簡単に解説します。

遺留分とは

遺言自由の原則と遺留分

私有財産制及び私的自治の原則から、人は自ら所有する財産を自由に処分できるという原則が導かれ、これはその人の死後についても当てはまります。これが遺言自由の原則です。遺言によって、遺産についてもその処分方法を自由に定めることができるのです。

しかし、遺言自由の原則にも例外があります。相続とは相続人の生活保障や潜在的な持ち分の清算という性質があり、このため相続人には一定の財産を相続させなければなりません。これが遺留分制度です。

遺留分権利者と遺留分割合

遺留分権利者は、子、直系尊属、配偶者などの相続人(兄弟姉妹を除く)です。子と配偶者については財産の2分の1、直系尊属については3分の1が遺留分です(民法1042条参照)。相続人が複数いるときは、さらに法定相続分の割合を乗じた額が遺留分になります。

遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)

それでは被相続人が、遺言によってこの遺留分を超える財産を第三者や特定の相続人に与えた場合(遺留分の侵害という。)、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者という。)はどのような手段を取ることができるのでしょうか。この場合、遺留分権利者は遺贈等を受けた者(受遺者や受贈者という。)に対して遺留分侵害額の請求をすることができます。

なお、改正前の相続法では、これを遺留分減殺請求と呼んでいましたが、令和元年(2019年)7月1日に改正法が施行されて、遺留分侵害額の請求という用語に変わり、その法的性質も大きく変わりましたので注意を要します。

遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)

改正前の相続法では、遺留分減殺請求の法的性質は「物権的な形成権」とされ、遺留分減殺請求権を行使すると、当然に権利が移転し、不動産であれば共有状態となり、これが事業用資産であったりすると事業に支障が生じると指摘されていました。

改正法では、遺留分権利者は、遺留分侵害額の請求権の行使として、受遺者等に対し「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求」することができるものとされました(民法1046条参照)。

なお、遺留分侵害額請求は、相続開始前の1年間にした贈与に限って、その価額を算入されます。ただし、相続人に対する贈与(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)については相続開始前の10年間にしたものが算入されます。

遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の具体的な方法

事例

夫、妻、子1人(子は独立して生計を立てているが、8年前に独立する際、夫(父)からマンション購入資金として1000万円の援助を受けていた。)の家庭において、夫が死亡したとき、夫が第三者(例えば生前世話になった第三者や施設等)に全ての財産を包括遺贈する旨の遺言をした場合を例にして考えてみましょう。財産は、妻が居住している土地建物(評価額3000万円)と預金4000万円とします(債務はなし。)。

事例における遺留分と侵害額

この場合、全ての財産を遺言で第三者に遺贈していますので、残った財産はなく、第三者が取得した財産の価額が基礎になり、これに子が生前に贈与を受けていたマンション購入資金1000万円を加算すると、総額8000万円になります。

この2分の1に相当する価額4000万円が遺留分ということになります。

そして、妻と子の法定相続分は各2分の1ですから、妻と子の遺留分侵害額はそれぞれ2000万円です。

なお、子はすでにマンション購入資金として1000万円の贈与を受けていますから、これを控除した1000万円が具体的な遺留分侵害額となります。妻と子は、第三者に対してこの価額の請求をすることができることになります。

なお、受遺者等がこの遺留分侵害額に相当する価額を支払うことができないときは、裁判所は支払期限を許与することができます。

まとめ

この事例では、包括遺贈する旨の遺言があるだけですが、生前に贈与が繰り返し行われていた場合は、相続開始に近い贈与から遺留分侵害額に相当する価額に満つるまで順次遡って遺留分侵害額を計算していくことになります(民法1047条参照)。

また、この事例では、包括遺贈と子に対する生存贈与がある単純な事例で説明しましたが、一部の財産についてのみ特定遺贈がなされ、遺産分割の対象となる財産が残されている場合などは、複雑な計算になりますので、改正後の相続法の規定を確認しておく必要があります。